眼の症状で多いものに「眼が見えない。」「ぶつかる様になった。」というものがあります。残念ながら、病気が進行し、両眼ともに失明して初めて飼い主様が気づくことがほとんどです。両眼が完全に失明してしまってから、回復させられる病気は多くありません。 失明を防ぐため、防げないとしても見えている期間をより長くしてあげれるように、早期発見が重要となります。
ワンちゃんネコちゃんは片眼だけ見えなくても、あまり症状に現れません。症状としては、片側の視野が狭くなるため、片方だけから近寄ったり、触られたりすると驚いたり、怒ったりする。距離感がなくなるためボールを追ったりできなくなる。瞳孔の大きさに左右差がある。 アイコンタクトの時に両眼があってない感じがする。ものを見るときに頭を傾ける。など、注意深く見ていなければ気づきません。また、眼が見えなくなる病気によっては、最初は昼だけ見えにくそう。夜だけ見えにくそう。明るいところから暗い所に行くと動きが鈍くなる。といった症状から進行する場合もあります。
眼が見えるということは光刺激が中間透光体(角膜、前房、水晶体、硝子体)を通過し、網膜で電気信号に変換します。視覚情報は網膜から視神経、視交叉、視索、外側膝状体、視放線、視覚皮質に伝わり、そこで情報が統合され、映像となり「見える」ということになります。
「見えない」というのはこの視覚の経路のどこかに異常があるということです。中間透光体の異常は眼科検査を行うことで、すぐに原因を見つけることができます。 網膜疾患は最終的に鎮静下による網膜電図検査をする必要がありますが、眼底検査と、眼科神経学的検査の結果から判断がつく場合があります。頭蓋内の病変が疑われる場合はMRI検査が必要となります。MRI検査は麻酔下で行います。
角 膜: | 色素性角膜炎、角膜炎、角膜瘢痕、角膜浮腫、黒色壊死症 |
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前 房: | 前部ぶどう膜炎による前房出血 |
水晶体: | 白内障 |
硝子体: | 後部ぶどう膜炎による硝子体出血 |
※それぞれに対する治療をおこないます。これら自体では完全に失明する可能性は低いです。 |
脈絡網膜炎: | |
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網膜、脈絡膜の炎症で、原因としてはウイルス、細菌、真菌、寄生虫、リケッチアなどによる全身感染の症状として表れるものや、白内障や水晶体の外傷に併発する水晶体起因性、他には原因不明の突発性に生じ、前部ぶどう膜炎に続発することもあります。 | |
高血圧性網膜症: | |
腎不全や心臓病、内分泌疾患、遺伝性の本態性高血圧などにより、網膜動脈狭小化、網膜下出血、硝子体出血などが生じます。治療の反応は様々です。 | |
網膜剥離: | |
網膜に穴が開いたり(裂孔原性)、網膜下に炎症が生じたり、炎症などにより瘢痕化や癒着が生じた結果起こります。硝子体の異常を伴う場合もあります。突発性の網膜剥離はシーズーに多い病気です。 |
進行性網膜萎縮: |
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遺伝子疾患で遺伝子も多く同定されています。ミニチュア・シュナウザー、コーギー、ラブラドール・レトリバーなど様々な犬種で報告されていまが、特にダックスフンドに多い疾患です。遺伝子の型によりますが、比較的、ゆっくり進行する病気です。時間がたってくると白内障が生じます。その際、進行が急性であることが多く、水晶体起因性ぶどう膜炎や続発緑内障に気を付ける必要があります。遺伝子検査が行えますが、遺伝子が解っているものだけであるということと、同じ犬種でも違う遺伝子による違うタイプのPRAがある(特にダックスフンド)ことに注意しなければいけません。 |
突発性網膜変性: |
原因不明で犬だけに報告されている病気です。どの犬種にもおこり、突然、通常2~3日で網膜が変性し失明します。視覚が一部残ることもあるようで、その場合はそのまま視覚が維持されます。多くの症例で食欲増加、体重増加、多飲多尿などの症状を伴います。 |
脈絡網膜炎は原因に対する治療になります。抗炎症治療に反応はしますが、原因が感染性疾患であった場合、ステロイド治療は禁忌です。また、高血圧網膜症は原因に対する治療と降圧治療ですが、網膜機能が改善するかどうかは様々で、病期によります。
網膜剥離は網膜剥離のタイプによっては抗炎症薬による内科治療が効果的なこともありますが、裂孔原性網膜剥離などは手術が必要となります。また、他の網膜疾患は治療法は今のところなく、今後の再生医療などの分野に期待されています。
進行性網膜萎縮は進行や続発の白内障を遅らせるため、抗酸化物質を投与しますが、確たるエビデンスは不明です。
緑内障: |
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眼圧が上がることで視神経乳頭が圧迫、軸索輸送や血流が障害され、視覚喪失に至ります。犬ではアメリカン・コッカースパニ エル、柴、ゴールデン・レトリーバー、プードルなど、隅角という房水の出口の異常が原因の遺伝性疾患が多いです。また、ほかの眼の病気からも2次的に生じることも多い疾患です。進行性の疾患ですが、手術や目薬で眼圧をうまくコントロールすることができれば、視覚が長期維持できることもあります。 |
視神経炎: |
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原因としては犬ジステンパーウイルスなどの感染性、肉芽腫性髄膜脳炎の眼型、腫瘍随伴性、外傷、突発性が考えられています。原因にもよりますが、突発性の視覚予後は悪くはないようです。治療は突発性の場合、ステロイドパルス療法、ビタミンB12などによる治療をおこないます。 |
視神経低形成: |
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遺伝疾患で視神経が生まれつき発達していない。ミニチュア・プードルなどで報告されています。治療法はありません。 |
脳内腫瘍による視神経圧迫: |
治療は脳腫瘍に対するものです。ロムスチンなど脳移行性が高い抗がん剤を使用します。切除可能であれば開頭し切除することもありますが、部位的に厳しいです。 |
脳炎や脳腫瘍が後頭葉の視覚皮質に影響することで生じます。視交叉以降の病変は半盲といって両眼の片側半分が見えない、認識できないといった症状が特徴的です。通常他の神経学的異常を伴い、MRIで診断します。治療は腫瘍の場合は抗ガン剤、手術で脳炎は抗炎症治療ですが、予後は厳しいものが多いです。