老齢性疾患について
私たちの動物も食事や予防医療などの普及により高齢化が進んでいます。現在では飼われているワンちゃんの4頭に1頭は10歳以上です。年齢に伴い(小型犬では7歳位から)動物達は骨や筋肉、内臓、脳などに老化が生じ始め、老齢性疾患につながっていくことがあります。
加齢に伴う身体的変化
消費カロリーの減少、肥満 |
消化・吸収能力の低下 |
さらに年をとってくると、消化吸収機能の低下より体重減少が起こることもあります。 |
感覚機能の低下 |
- 聴覚:特に中音~高音の低下
- 視覚:ピント調節能、老齢性白内障、加齢に伴う網膜変性(シーズなど)
- 味覚、嗅覚?
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脳 |
認知障害、行動変化 |
臓器 |
心臓、腎臓、肝臓等 : 予備能力、機能の低下、萎縮 |
免疫機能 |
特に細胞性免疫の低下(悪性腫瘍、感染症の発生など) |
骨格筋 |
筋肉量の減少 |
骨 |
骨密度の減少 |
変形性関節症、変形性脊椎症など |
高齢動物における好発疾患
腫瘍性疾患
加齢に伴い乳腺腫瘍、リンパ腫、血管肉腫、軟部組織肉腫、肥満細胞腫などの順番で様々な腫瘍が
発生します。
好発犬種 |
特にゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバーなど大型犬種に多い。 |
原因 |
遺伝的要因、ウイルス、化学物質、紫外線、炎症、感染、ホルモンなどや年齢的な細胞性免疫力の低下などが考えられます。 |
治療 |
抗がん剤や手術、放射線治療など、それぞれの腫瘍に対するご提案させて頂き、ご相談の上決定いたします。 |
僧房弁閉鎖不全症
特にマルチーズ、シーズ、キャバリア、プードル、ポメラニアンでは加齢に伴い心臓の僧房弁が完全に閉じなくなることで、心臓のポンプ機能が低下し、咳や運動を嫌がるといった症状として表れます。
治療
薬 |
心肥大が認められる場合には延命効果が認められる、血管拡張剤のエース阻害剤をスタートします。内服薬は心筋の保護作用も認められますが、あくまで心臓の負担を取るための、対症療法です。進行性の病気であるため、内服薬は続ける必要があり、状態により増やしていく必要があります。 |
手術 |
弁置換術、弁形成術などは、根本的治療ですが、コスト面(弁置換は100万円以上)、限られた施設(鳥取、名古屋、関東など)でのみ可能であること、また、手術、麻酔リスクとの兼ね合いから手術のタイミングも難しく、術後も血栓抑制剤を続ける必要がある等、なかなか現実的には困難なものです。 |
腎不全
特にねこちゃんに多く、正確な発症率は不明ですが15歳以上の30%以上が腎不全といわれています。また、ワンちゃんも加齢による腎機能低下により、腎疾患が顕著化することもあります。
治療
食餌療法 |
タンパク質やリン、ナトリウムを制限した食事に変更することで、延命効果が認められています。 |
薬 |
腎保護作用、抗高血圧作用、腎血流量増加が期待できる、エース阻害剤を使用します。また、高リン血症、高血圧が認められる場合はそれに対する薬を追加します。 |
皮下点滴、静脈点滴 |
病気が進行し脱水が生じやすい場合や調子が悪く水分が取れない場合には積極的に行います。 |
腹膜透析、血液透析 |
血液中の老廃物を透析液を介して外に排泄します。血液透析は人工透析装置がある施設でしか行えません。 |
腎移植 |
唯一の根本的治療法となりえる治療ではありますが、獣医領域では確立された治療法ではないこと、できる施設が限られていること、施設にもよるが術後成績が高くないこと、コストの問題、腎臓を提供する動物の愛護的観点、術後の免疫抑制剤、血栓防止剤などの服用など様々な点をクリアする必要があり、現実的にはとても難しいものです。 |
変形性関節症
加齢や関節疾患に伴い、関節軟骨が変質し、すり減って薄くなり、炎症関節内に炎症を起こします。炎症に伴い、骨自体も変形していきます。 物理的な摩擦や炎症により、関節を動かす際に痛みを伴い、そのため歩くのを嫌がったり、跛行を示します。
治療
薬 |
NSAIDs |
痛みを抑え、炎症抑える効果があります。 |
ポリ硫酸ペントサンナトリウム |
抗炎症作用、軟骨破壊抑制、軟骨再生作用などが期待されます。1週間に1度づつ、計4回注射します。 |
体重管理 |
体重が重いとそれだけ関節に負担となり、炎症や痛みも増すので減量が必要となります。 |
運動療法、リハビリ |
炎症が強い場合は運動制限が必要です。一方、慢性的になってくると、筋肉量が減り、さらに関節の負担が増えてくるため、関節の可動域を広げること、筋肉量を維持する目的で無理のない運動やストレッチなどが重要となります。 |
腹膜透析、血液透析 |
血液中の老廃物を透析液を介して外に排泄します。血液透析は人工透析装置がある施設でしか行えません。 |
サプリメント、フード |
グルコサミンやコンドロイチンなど |
認知機能不全
人のアルツハイマー病と類似点が多く、発生率は犬の12歳以上で15%、14歳以上で30%、16歳以上で60%と非常に多い疾患です。
症状
- ・飼主さんがペットの名前を呼んでも反応しない
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- ・1日中寝ていることが多く、夜はそれほど眠らない。そして夜中に意味もなく鳴く
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- ・よく寝て、よく食べるが下痢もせずやせてくる
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- ・狭く暗いところに入りたがり、出られない(バックできない)
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- ・あてもなくトボトボと歩き続ける。時に円を描くように歩く
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- ・尿失禁など不適切な排泄をするようになる
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- ・頻繁に震える
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- ・知っているはずのコマンドを無視するようになる
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- ・活動性が低下する
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- ・家族や親しい人を見分けられなくなる
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治療
行動学的エンリッチメント |
脳に積極的に刺激を与えることが必要となります。具体的には①散歩、②新しく、考えさせるおもちゃの給与、③人や動物とのかかわりの増加、④新しい動作のトレーニング、⑤日中の覚醒時間の確保と夜間睡眠前の運動などが重要となります。 |
食事、サプリメント |
- ・EPA、DHAなどの不飽和脂肪酸:
神経細胞膜の保持、安定化、ソロトニン作用の増強が期待できる。
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- ・合成メラトニン:睡眠-覚醒サイクルの正常化が期待される。
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- ・よく寝て、よく食べるが下痢もせずやせてくる
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予後 |
認知機能不全は積極的な治療を行うことで進行を遅くは出来ますが、徐々に進行していきます。動物たちにとっても人にとっても最善の方法を見つけることが必要となります。 |
予後
認知機能不全は積極的な治療を行うことで進行を遅くは出来ますが、徐々に進行していきます。動物たちにとっても人にとっても最善の方法を見つけることが必要となります。 |
老齢性疾患は早期発見することで進行を遅らせることのできるものがほとんどです。
7歳を超えたら定期健診を行い、病気の早期発見、早期治療につとめましょう。